物質の新しい状態を求めて

2つの磁性イオンをユニットとする、あるタイプの量子スピン系において期待される磁気状態の模式図。(a),(b),(c)のような磁気秩序状態に加えて、(d)スピンシングレット状態、(e)スピンネマティック状態と呼ばれる磁気秩序を持たない量子状態が実現される。

私たちの研究室の主な研究テーマは、量子磁性体における新しい状態の探求です。これだけだと何のことだかわかりにくいので、例え話をします。
皆さんが、ある惑星の生物であると思ってください。その惑星には、硬い地面(固体)と空気(気体)しかなく、皆さんはその中で生きています。(どうやって生きているかはわかりませんが・・・)その惑星を皆さんがさまよっていると、あるとき、水を満面にたたえた湖を発見します。生まれて初めて見る「液体」です。皆さんの驚きはいかばかりでしょうか。見たこともない状態の物質をみて「何だこれは」と思うでしょう。そして(知的好奇心旺盛な人であれば)その性質を詳しく知りたいと思い、嬉々としてその「液体」の研究を始めるでしょう。
話を磁性体に戻します。私たちの身の回りにある物体の中には、小さな磁石のような性質をもった粒子(磁性イオン)が整然と並んでできた物質があります。それらの物質は、構成要素である磁性イオンが量子力学に従うことから、量子磁性体と呼ばれます。この量子磁性体の多くでは、高温では各イオンの磁石の向きがばらばらになっている状態(気体)が、低温では各イオンの磁石がある特定の向きに固定された状態(固体)が実現されます。これらは既によく知られている状態です。しかし、磁性イオンの種類やその並べ方を変えてみると、磁石の向きがばらばらではないが固定されてもいない、新しい状態が出現することがあります。新しい磁気的状態の発見です。私たちの研究室では、そのような新しい磁気的状態が実現される物質を探索し、その性質を解明する研究を行っています。

准教授 引原 俊哉 HIKIHARA toshiya
研究キーワード 強相関電子系,量子スピン系,量子多体状態,数値計算,密度行列繰り込み群法,テンソルネットワーク
研究分野 物性物理学
主な研究テーマ
  • 量子多体系における新奇量子状態の探求と特性解明
  • 量子多体状態を解析するための数値計算手法の開発
研究概要

固体の電気的・磁気的性質は,多くの場合,結晶を組む原子核からの影響を受けた,多数の(アボガドロ数個程度の)電子からなる集団の性質に支配されている。そのような電子集団が示す特異な量子状態・量子現象を探索し,その性質を解明する理論的研究を行っている。また,それらの量子状態を解析するための新たな数値計算手法の開発も行っている。

提供できる技術 ・応用分野

密度行列繰り込み群法,厳密対角化法,実空間繰り込み群法などの数値的手法を用いた低次元強相関電子系・量子スピン系の研究

主要な所属学会

日本物理学会

論文
  • Automatic structural optimization of tree tensor networks, Phys. Rev. Research 5, 013031 (2023).
  • Tensor-network strong-disorder renormalization groups for random quantum spin systems in two dimensions, Phys. Rev. B 102, 144439 (2020).
  • Spin nematics in frustrated spin-dimer systems with bilayer structure, Phys. Rev. B 100, 214414 (2019).
最終更新日: