イリジウム錯体の酸素による 発光強度変化
(左図)イリジウム錯体を用いた ミトコンドリアイメージング、(右図)担がんマウスを用いた 腫瘍イメージング (赤く発光している場所が腫瘍)

みなさんは,光化学という学問を聞いたことがありますか?あまりなじみが無いかもしれませんが,実は,私たちの身に回りのことに深く関わっています。例えば,植物が行う光合成,太陽の光エネルギーから発電する太陽光発電,紫外線による皮膚の日焼け,暗闇に輝く蛍の光などがあります。これらのことについて学ぶのが光化学です。
 この光化学を応用すると,生きた細胞の中の様子や,そこで起きていることを,リアルタイムで我々の目に見えるようにすることもできます。これを,光を用いたバイオイメージングと言います。例えば,細胞の中にある核やミトコンドリアは細胞中のどこに分布しているのか?細胞はどのようにエネルギーを生み出しているのか?たんぱく質やDNAはどのような働きをしているのか?細胞の中のカルシウムはどのくらいの濃度なのか?などたくさんの生命現象を,顕微鏡を通して見えるようにすることができます。
 私は,細胞や組織中の酸素の様子を観察する研究を行っています。皆さんが知っているように,酸素は生命維持になくてはならない分子です。また,酸素は‘がん・脳卒中・心筋梗塞’などの病気とも密接に関わっています。私は,酸素によって発光が変化する分子(イリジウム錯体)を開発し,その発光を顕微鏡下で観察することで,生きた細胞や組織内の酸素を計測し,病気の診断を可能とする研究を進めています。

教授 吉原 利忠 YOSHIHARA toshitada
研究キーワード 光化学,バイオイメージング,蛍光性材料,りん光性材料,酸素,脂質,細胞
研究分野 物理化学機能物性化学分析化学生体分子化学人間医工学
主な研究テーマ
  • 細胞・組織内の酸素分圧計測法の開発
  • 細胞・組織内の脂質滴イメージング試薬の開発
  • バイオイメージングのための機能性発光分子の開発
研究概要

光が関与する物理化学的現象について,凝縮相における基礎研究や,細胞・組織を対象とした応用・実用化研究を進めている。特に種々の光物理化学的実験手法を用いて,光を吸収した分子の緩和過程(発光過程,無放射失活過程,光化学反応)を詳細に研究している。これらの基礎研究をもとに,生体関連化合物の細胞・組織内分布を可視化(イメージング)するための発光プローブ分子の開発,特に細胞・組織内酸素濃度計測のためのプローブ分子および計測法の開発,組織内の脂質滴をイメージングする試薬の開発を進めている。また,励起有機分子の無放射失活過程を利用した新規紫外線吸収剤の開発にも取り組んでいる。研究室には,発光プローブ分子の合成設備,光物理化学的計測装置,細胞・組織を取り扱える設備,蛍光顕微鏡などがあり,分子設計から細胞・組織内における解析・評価まで行うことが可能である。

提供できる技術 ・応用分野

生体内で機能する発光性化合物開発,酸素センサー開発,機能性発光材料開発,紫外線吸収材開発,蛍光・りん光計測および解析技術

主要な所属学会

日本化学会,米国化学会,光化学協会,日本分子イメージング学会,日本光医学・光生物学会

論文
  • Confocal microscopic oxygen imaging of xenograft tumors using Ir(III) complexes as in vivo intravascular and intracellular probes. Sci. Rep., 14, 18443 (2024).
  • In vivo imaging of lipid droplets and oxygen status in hepatic tissues of nonalcoholic fatty liver model mice using a lipophilic Ir(III) complex. Anal. Chem., 95, 3729-3735 (2023).
  • Intracellular and Intravascular Oxygen Sensing of Pancreatic Tissues Based on Phosphorescence Lifetime Imaging Microscopy Using Lipophilic and Hydrophilic Iridium(III) Complexes. ACS Sens., 7, 545-554 (2022).
受賞歴
  • 2013 第17回横山科学技術賞
  • 2012 第34回日本光医学・光生物学会奨励賞
最終更新日: