光化学反応で作られたピセン (世界初の有機超伝導物質)

励起状態の分子
高校生の皆さんが学校で学ぶ化学では、未来永劫安定に存在する物質を扱っていると思います。このような物質はエネルギー的に最も安定な状態(基底状態といいます)にあります。基底状態の分子に光や放射線のエネルギーを与えて、エネルギーの高い状態(励起状態といいます)にしたときに、どのような化学反応がどの程度で起こるのかを私は研究しています。励起状態の分子は不安定なので、光として放出して安定な状態に遷移しようとしたり,獲得したエネルギーを化学反応の推進に使用して新しい物質に変わろうとします。基底状態では起こらない反応も励起状態では簡単に起こることもあります。これまでに、励起状態の反応を使って世界初となる有機超伝導物質の作成に成功しました。なんと,紫外線を原料物質に照射するだけでこの物質ができるのです(図を参照)。さらにこの物質は有機トランジスタにもなることがわかりました。これからのリニアモーターカーの磁石や,AIコンピュータを支える高速デバイスへの応用が期待されています。一方,電気のエネルギーにより発光する有機電界発光(OLED)と呼ばれる素子も開発しています.皆さんの使っていたスマホは液晶画面が多く占めていましたが.最近有機ELスマホが登場したのを御存知と思います.詳しい話はオープンキャンパスでお話ししましょう。

准教授 山路 稔 YAMAJI minoru
研究キーワード 有機超伝導体,光ラジカル重合,有機半導体,有機EL材料,化粧品,食品生産管理,LoRaWAN
研究分野 物理化学機能物性化学生産環境農学情報科学情報工学
主な研究テーマ
  • 高効率青色及び近赤外有機電界発光体(OLED)の開発
  • 有機超伝導・半導体の開発
  • ICTによる効率の良い食品生産管理システムの構築
研究概要

分子が光のエネルギーを吸収すると,通常の分子とは異なる化学的性質を持つ励起状態を形成します。励起状態では発光したり,通常では考えられない化学反応を起こします。この特長を利用して,発光効率の大きな分子を設計したり,熱化学反応ではできない反応により,新しい物質を創製する応用技術を開発し,工業・産業に応用可能な新物質を創造しています。生物も分子の集合体なので,光の恩恵で育っていきます。制御した光が食用生物の育成効率を向上させ,ひいては我々の健康増進につながる研究を行っています。

提供できる技術 ・応用分野

光や放射線を用いた化学技術,光重合開始剤・有機発光材料・紫外線遮蔽剤・有機半導体・超伝導物質の創製,広域ネットワークによる農林業製品生産効率向上システムの構築

主要な所属学会

日本化学会,光化学協会,日本放射線化学会

論文
  • Radiochromism of spiropyran via the radical ions studied by pulsed electron radiolysis and DFT calculation, Radiat. Phys. Chem., 227 (2025) 112393.
  • Pulse radiolysis studies of open-formed diarylethenes in organic solvent: Does the radiochromism proceed in radical ions and triplet state ? Phys. Chem. Lett., 865 (2025)141945.
  • Color variation in radio-luminescence of P-dots with thermally activated delayed fluorescence molecules, Phys. Chem. Chem. Phys., 27 (2025) 7605.
受賞歴
  • 放射線化学賞(2024)
  • 物質デバイス共同研究賞(2024)
  • 第9回横山科学技術賞(2006)
メディア情報
  • 群大太田キャンパス教員が日本放射線化学賞を受賞
  • 理工学府分子科学部門教員が阪大産研で行なった共同研究成果が表彰される
  • 光で創ったハイブリッド型多環芳香族化合物が有機半導体になる成果が学術雑誌の表紙でも紹介されました
  • 本学の物理化学の研究論文が英国王立化学会の 2023 HOT PCCP article に選出されました
  • 簡単な合成で作製できる白色発光物質を発見
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