当研究室で合成された新規配位子を有する遷移金属錯体の分子構造

私たちは,プラスチックや医薬品,繊維,色素など様々な有機化合物を利用して生活しています。これらの有機化合物の多くは石油を原料にして合成されていますが,石油は限りある資源ですので,これらの化合物を永続的に供給するには,我々の周りに大量にある空気[窒素(N2),酸素(O2),二酸化炭素(CO2),水蒸気(H2O)などの混合物]などを原料として合成を行うことが望まれます。
 我々の研究室では,二酸化炭素や窒素,酸素を有用な物質に変換する反応において触媒として働くことができる新規金属錯体(金属に配位子と呼ばれる分子やイオンが結合したもの)の開発を目的として,新規配位子を有する金属錯体の合成・構造・二酸化炭素,窒素,酸素などとの反応性について研究を行っています。また,合成した新規金属錯体は,種々の有機合成反応の触媒となることが期待されますので,その触媒活性についても研究を行っています。
 これまでに我々は,当研究室で開発した新規配位子を用いて様々な金属錯体を合成し,その金属錯体の幾つかが,種々の有機合成反応の触媒となることを明らかにしています。現在,本来の目的である空気を有用な物質に変換する反応の触媒となる金属錯体の合成を目指して研究を続けています。

研究室についてSTUDENT
グローブボックス:装置の中は反応性の低い気体であるアルゴンガスで満たされ,酸素や水などがない状態が保たれています。この装置の中で,空気と反応してしまう遷移金属錯体を取り扱います。
2024年7月に学校脇の桐生川の河原でバーベキューをした時の写真です。研究室では,1月に1回程度,バーベキューやスポーツ大会などのイベントを行なっています。
准教授 武田 亘弘 TAKEDA nobuhiro
研究キーワード 有機元素化学,有機金属化学,錯体化学,金属錯体触媒,小分子の活性化,新規配位子の合成,有機合成化学
研究分野 有機化学無機・錯体化学有機材料
主な研究テーマ
  • 高周期典型元素を有する新規多座配位子の開発
  • 新規多座配位子を用いた新規遷移金属錯体の合成
  • 新規遷移金属錯体を用いた触媒反応の開発
研究概要

当研究室では,ケイ素,硫黄,セレン,リンなどの高周期典型元素を有する新規多座配位子の開発と,それらを用いた遷移金属錯体の合成,さらにこれらの金属錯体を用いた小分子(二酸化炭素,酸素,窒素など)の活性化や触媒反応の開発について研究を行っている。
これまでに我々は,新規な配位子である,シリル部位に3つのチオエーテル配位子がつながったSiS3型配位子,およびホスフィン部位に3つのチオエーテル配位子がつながったPS3型配位子を開発し,これらの配位子を有する9-11族金属錯体の合成に成功している。そして,これらの配位子を有するロジウム錯体およびイリジウム錯体が,フェニルアセチレンのヒドロシリル化反応において触媒活性を示し,E-またはZ-β-フェニルアルケニルシランを高い選択性で生成させることを明らかにした。さらに,これらの金属錯体の,酸素や二酸化炭素を原料とした合成反応などに対する触媒活性についても検討を行っている。

提供できる技術 ・応用分野
  • 反応活性化合物,不安定化合物の合成と取り扱い
  • 有機化合物(特に高周期14-16族元素を含むもの),有機金属化合物,遷移金属錯体の合成と構造決定
  • 遷移金属錯体を用いた触媒反応の開発
主要な所属学会

日本化学会,錯体化学会,ケイ素化学協会,有機合成化学協会,近畿化学協会

論文
  • Synthesis and Complexation of a New Tripodal Tetradentate Ligand, a Silyl Ligand Tethered with Three Thioether Moieties, Organometallics, 29, 2839-2841 (2010).
  • Activation of C–S Bond by Group 10 Metal Complexes: Reaction of Phosphine Ligand Tethered with Three tert-Butylthiophenyl Groups with Group 10 Metal Compounds, Bull. Chem. Soc. Jpn., 89, 922-930 (2016).
  • Synthesis and Properties of Dimethylpalladium Complex with New PS3-type Tripodal Tetradentate Ligand, J. Organomet. Chem. 897, 178-184 (2019).
受賞歴
  • 日本化学会欧文誌 BCSJ賞(2002, 2005年)
  • 平成15年度第8回ケイ素化学協会奨励賞
  • 第10回化学研究所「所長賞」(2005年)
  • 第4回有機合成化学協会関西支部賞(2006年)
最終更新日: