可視光に応答する分子のしくみの解明と開発

かさ高い置換基により変形を抑えたCu(I)錯体の例。 写真は溶液に溶かした時(置換基が異なる配位子をもつ錯体では色が異なる)
ピコ秒時間分解発光測定装置―レーザー光を使って分子が光を吸収した後どのように時々刻々変化していくかを調べる測定をしています。

美しい色の金属錯体
 私達の目に色が見えるのは可視光という人の目が感じることのできる波長の光が届くからです。金属錯体は金属イオンと有機化合物の組み合わせからできており、美しい色を示す物質が数多くあります。太陽光を吸収し、そのエネルギーを別の色の発光に変えたり、電気・化学エネルギーに変換する役割を担うことができます。こうした光に応答し種々の機能を示す光機能性金属錯体は基礎と応用の両面で、現在盛んに研究が行われています。

光機能のしくみ
 私共の研究室では、新しい光機能につながる現象を分光学という手法を用いて解明し、それをもとに錯体を設計・合成しています。と同時に一般的な原理やしくみを、明らかにし、世の中に貢献したいと考えています。例えばI 価のCu 錯体は光吸収により、分子の中で+と―に部分的に電荷が分かれた状態になり、光を電気に変えるのに役立ちます。しかし、この時、CuイオンはII 価に近い状態になり、分子が形を変えようとし、機能低下が起こります。これをどうやって防ぐか、現象の解明と新しい配位子の設計が必要です。

教授 浅野 素子 ASANO motoko
研究キーワード 光化学,光機能性金属錯体,π電子化合物,エネルギー移動,時間分解発光,時間分解ESR,電子状態
研究分野 物理化学無機・錯体化学
主な研究テーマ
  • Cu(I)錯体の励起電子構造の解明と光エネルギー変換に関する研究
  • 金属錯体をコアとした近赤外発光とその長寿命化
  • 発光性共役ポリマーおよび金属錯体オリゴマーにおける励起ダイナミクス
研究概要

可視・近赤外の光と物質の相互作用は極めて選択的です。これは、可視・近赤外光が、物質の光機能を引き出す際に優れている点ともいえます。一方で可視・近赤外光は太陽光の中でもその含まれるエネルギー総量は大きく、その有効利用は極めて重要です。我々の研究室では金属錯体やπ電子系化合物、あるいはそれらの連結系化合物を用いて,可視光・近赤外光との相互作用によって新しい物質の光機能を引き出すとともに、そのメカニズムを光物理化学的観点から解明しています。
 実際には時間分解分光測定と分子の設計・合成を行っています。例えば,Cu(I)を用いた錯体では,光励起により可視部の電荷移動励起状態から発光し光エネルギー変換材料素子として有望ですが,励起状態で分子の変形が起こりやすくやや不安定です。そこで,どのようにしたら,発光寿命が延び安定な光励起状態が得られるかを,分光学的測定に基づいて明らかにし、分子設計へと役立てます。
 また、最近、これまでよりも何十倍も高速に(短い時間で)測定ができる近赤外発光の時間分解測定装置を開発しました。この装置を用いて、新しい近赤外の発光素子を開発しています。

提供できる技術 ・応用分野

2次元時間分解蛍光測定と解析(発光寿命,時間分解蛍光スペクトル),近赤外発光、電子スピン共鳴(ESR)測定(ラジカル検出)

主要な所属学会

日本化学会,光化学協会,錯体化学会,電子スピンサイエンス学会,分子科学会

論文
  • “Significance of the Connecting Position between Zn(II) Porphyrin and Re(I) Bipyridine Tricarbonyl Complex Units in Dyads for Room-Temperature Phosphorescence and Photocatalytic CO2 Reduction: Unexpected Enhancement by Triethanolamine in Catalytic Activity“,Chem. Sci., 14(33) 8683–8972 (2023). [https://doi.org/10.1039/d3sc02430j] (selected as Chemical Science HOT Article Collection and as Front cover).
  • “Observation of Intramolecular Interaction in Fluorescent Star-Shaped Polymers: Evidence for Energy Hopping between Branch Chains “,J. Phys. Chem. B, 124 (50), 11510-11518 (2020). [http://dx.doi.org/10.1021/acs.jpcb.0c09613]
  • Visualization of Nonemissive Triplet Species of Zn(II) Porphyrins through Cu(II) Porphyrin Emission via the Reservoir Mechanism in a Porphyrin Macroring”,Photochem. Photobiol. Sci., 17, 883-888 (2018). [10.1039/C8PP00210J]
受賞歴
  • 2022年度 電子スピンサイエンス学会学会賞
最終更新日: