腸内細菌叢と食事由来物質

私たちの腸には2,000種以上、約40兆個ともいわれる腸内細菌が棲み、これらが集まり腸内細菌叢と呼ばれる生態系を作っています。そして、腸内細菌のバランスは一人ひとり全く違います。腸内細菌は、私たちが食べた食物繊維などを分解することでエネルギーを獲得しています。その時に様々な物質が作られ、その中には私たちの健康状態に影響するものがあります。つまり、腸内細菌に良い物質を作ってもらうことで私たちの健康の維持あるいは促進が期待できます。そのため、現在、腸内細菌に良い物質を合成してもらうために食物繊維などを加えた様々な食品が販売されています。ところが、腸内細菌叢は人によって違うため、同じ食物繊維を摂っても合成される物質の量や種類に差があり、効果に違いが生まれます。そこで大事になるのが【どのような腸内細菌がどのように良い物質を合成しているのか】を知ることです。これが分かれば、一人ひとりの腸内細菌叢を調べ、その人に合った食事の提案が可能になります。
私たちは、食物繊維などの食事由来成分を分解・代謝をする腸内細菌を見つけ、その細菌がどのように食事由来成分を分解・資化しているのかをタンパク質・遺伝子レベルで明らかにする研究をしています。

研究室についてSTUDENT
クリーンベンチでの実験
実験の様子
准教授 杉山 友太 SUGIYAMA yuta
研究キーワード 腸内細菌、遺伝子、タンパク質、代謝物、食物繊維、アミノ酸
研究分野 農芸化学
主な研究テーマ
  • 食餌成分の保健効果を担う腸内細菌に関する研究
  • 腸内細菌が持つタンパク質・遺伝子の機能の研究
研究概要

腸内細菌は、ヒトが消化・吸収できない食餌成分を分解・代謝し、ヒトの様々な健康状態に影響する多様な代謝物を産生します。そのため、食物繊維をはじめ腸内細菌叢を介して保健効果を示す成分を含む食品が開発・販売されています。ところが、腸内細菌叢は十人十色であり、食餌成分の適切な代謝物への代謝能にも個人差があるため、享受できる保健効果に差があります。さらに、個人の腸内細菌叢データから食餌成分代謝能を予測しようとする試みがありますが、腸内細菌は菌株ごとに食餌成分の代謝能が異なるため、既存の菌叢解析で予測することは困難です。一方、食餌成分の保健効果を担う腸内細菌が持つ代謝酵素遺伝子を同定できれば、その遺伝子量を指標とした予測が可能になります。
私たちは、様々な食餌成分について、どのような腸内細菌が代謝に関与しているのか、さらに、どのようなメカニズムで代謝しているのかについて遺伝子レベルで解明を進めています。得られた成果を基に、個人の腸内細菌叢に適切な食餌成分の提案を目指しています。このほか、腸内細菌が持つユニークなタンパク質や遺伝子の機能解析を進めています。

提供できる技術 ・応用分野

食餌成分の腸内細菌への影響評価(生育、代謝物)
腸内細菌による食餌成分・化学物質の代謝機構の解析(遺伝子・タンパク質・代謝物)

主要な所属学会

日本農芸化学会,日本乳酸菌学会,腸内細菌学会,日本フードファクター学会,日本ポリアミン学会

論文
  • Gut bacterial aromatic amine production: aromatic amino acid decarboxylase and its effects on peripheral serotonin production, Gut Microbes, 14, 2128605 (2022)
  • Development of a new chromogenic method for putrescine quantification using coupling reactions involving putrescine oxidase, Analytical Biochemistry, 593, 113607 (2020)
  • Introduction of H-antigens into oligosaccharides and sugar chains of glycoproteins using highly efficient 1,2-α-l-fucosynthase, Glycobiology, 26, 1235-1247 (2016)
受賞歴
  • 2017年 ポスター最優秀賞(第10回北陸合同バイオシンポジウム)
  • 2015年 ポスター優秀賞(第8回北陸合同バイオシンポジウム)
  • 2011年 ICoFF Poster Award
メディア情報
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