フォトンカウンティングCTで測定したコイン型リチウム電池

1896年にW. Rontgen(1901年、ノーベル物理学賞)によって発見されたX線は高い透過性があるため、医学から非破壊検査まで多くの分野で利用されています。その高い透過性を利用して、人体や物体の断層像を得るX線CT(X-ray Computed Tomography)という手法があります。X線CT装置として初めて市場にでたのはG. Hounsfield(1979年、ノーベル生理学・医学賞)によって開発されたEMIスキャナー(1973年)です。EMI社は英国にあったレコード会社です。「なぜレコード会社が医療機器を?」は、技術史の面白いところでしょう。
 ところで、これまでのX線CTはX線の強度のみを測定して画像しています。いわば白黒写真の世界です。ところでX線は波長の短い電磁波ですから、強度のみならず波長の情報もあります。X線の強度と波長(エネルギー)の情報を同時に計測して断層像を得るのがフォトンカウンティングCTです。いわばカラー写真です。カラー写真を見れば果物が熟しているかわかるように、人体の臓器や物体の輪郭だけでなく、物体の物質がわかります。
 図(a)(b)はコイン型リチウム電池の断面をフォトンカウンティングCTで調べた結果です。(a)は新品の電池、(b)は放電した電池です。Li電池の負極は金属Li、正極はMnO2でできており、放電すると負極の金属Liがイオン化し、Liイオンが正極に拡散していきます。正極の部分だけをとりだして解析し、放電状態を数値化したものがSOC(State of Charge)です。SOC100%が充電した状態、SOC0%は放電状態です。新品においては概ね正極全体がSOC100%です。一方、放電状態では負極に近いほうの正極(正極の上側)はSOC0%ですが、負極から遠いほうの正極(正極の下側)では、SOC100%の部分が残っています。
 このようにフォトンカウンティングCTは例えば自動車用電池の非破壊検査技術としの可能性もあります。新しい技術であるので、高エネルギーX線に関する科学の発展にも寄与するでしょう。ビートルズがノーベル賞を生み出すような時代が来るでしょうか。

教授 櫻井 浩 SAKURAI hiroshi
研究キーワード コンプトン散乱,X線,リチウムイオン電池,非破壊検査,磁性材料, フォトンカウンティングCT
研究分野 電気電子工学安全工学応用物理物性人間医工学エネルギー関連化学
主な研究テーマ
  • フォトンカウンティングCTを用いた検査法開発
  • コンプトン散乱イメージング法の開発
  • 巨大磁歪効果を生み出す電子状態の解明
研究概要

X線は医学,工業製品の検査,空港などの保安検査など広く利用されている。これらでは,X線強度の減衰が物質によって異なることを利用して物体の外形や内部構造を調べている。これはX線の強度情報を利用した「白黒写真」である。一方,最近になってX線の波長(エネルギー)情報を解析すれば,元素の種類や化学結合の情報が得られることがわかてきた。いわばX線のカラー写真である。本研究室では「X線のカラー写真」を解析して,元素の種類や化学結合を調べる研究をしている。

提供できる技術 ・応用分野

磁性薄膜作製と評価,リチウムイオン電池の電極反応分布,X線測定技術

主要な所属学会

日本物理学会,応用物理学会,磁気学会,放射光学会

論文
  • Tomographic reconstruction of oxygen orbitals in lithium-rich battery materials, Nature 594, 213-216 (2021).
  • X線CT装置、電子密度及び実効原子番号の測定方法、CT検査方法、検査方法, 再表2018/062308(2018/04/05)
最終更新日: