図1 電気の力で小さな食品粉末を空中に浮かせる装置
図2 学生協力しながら実験をおこなている風景

食品ロスは世界中で深刻な問題となっています。現在,食料生産の約3分の1が廃棄されており,世界の飢餓問題の大きな要因になっています。食品と水は切っても切れない関係があり,水分は食感,保存性,栄養価など,食品の品質に大きな影響を与えます。特に食品中に自由に動き回る水分は,カビや細菌の繁殖を促進するため,食品を腐食させる原因となります。そのため,食品の保存性を向上させるためには,食品がどれだけ水分を吸収するか調べ,食品中の水分量を上手に制御することが重要となります。私たちの研究室では,食品を細かく砕き,その粉が空気中の水蒸気をどのくらい吸収するか測定し,食品と水との関係を明らかにすることを目的に研究を行っています。
 食品粉末の水分吸収量の測定には,当研究室で開発した電気力学天秤と呼ばれる装置を用いています(図1)。食品粉末を帯電させて,電気の力で空中に浮かせ,重力と静電気力のバランスを保つことで,粉末の重さを測定します。この測定結果から食品を構成している有機物質と水の相互作用が徐々に分かるようになってきています。かなり難易度の高い実験ですが,学生同士が協力して楽しく実験を行っています(図2)。

研究室についてSTUDENT
図3 研究室メンバー全員集合
図4 クリスマス Party
准教授 原野 安土 HARANO azuchi
研究キーワード 食品工学,粉体食品,結晶微粒子,大気化学
研究分野 化学工学ナノマイクロ科学物理化学環境解析評価環境保全対策
主な研究テーマ
  • 微小液滴からの結晶粒子の生成と多形制御
  • 粉末食品の吸湿性評価
  • 大気エアロゾルの吸湿性評価
研究概要

粉末食品は吸湿性があるため,潮解や固化などの相変化が生じる。しかし,有機物と水との相互作用は複雑であり,その吸湿特性を把握が重要となる。当研究室では,マイクロサイズの粒子一粒を電気の力で空中に浮揚させ,その重量変化から吸湿性の評価,さらにin situの単一粒子ラマン分光を用いて,有機物と水の相互作用の全貌を明らかにする実験を行っている。さらに,液滴を乾燥させて結晶粒子を作る実験も同装置を用いて行っている。医薬用結晶微粒子は多形や形態が,薬品の安定性や溶解性,さらには生物学的利用能に大きな影響を与える。結晶の多形や形態を精密に制御するには,ミクロに結晶化現象を捉え,積極的に核発生や結晶成長に関与する必要がある。それを実現するためには,均一な過飽和条件下での結晶操作が理想であり,物質や熱移動が迅速な微小空間での結晶化技術の確立が鍵となる。当研究室では空中に浮揚した単一微小液滴を結晶化空間場として捉え,液滴内の過飽和度の調整により,ミクロレベルで積極的に結晶化過程に関わることで,結晶の多形および形態の制御を行っている。

提供できる技術 ・応用分野

微小液滴に関する技術開発,PM2.5などのエアロゾルに関する研究,低温プラズマ技術,レーザ分光技術,化学工学全般,粉体工学全般,粉体食品製造技術

主要な所属学会

化学工学会,食品工学会,エアロゾル学会,粉体工学会,静電気学会

論文
  • 実例で学ぶ化学工学 -問題解決のためのアプローチ-,化学工学会教科書委員会編,106-128,丸善 (2022)
  • 浮揚ヨウ化カリウム微小液滴の結晶化過程の観察,エアロゾル研究, 35(3), 200-207(2020)
  • 新しい反応場としての浮揚微小液滴の可能性,エアロゾル研究, 33(4), 248-252(2018)
受賞歴
  • 化学工学会 教育奨励賞, 2012年
  • 日本エアロゾル学会計測賞, 2013年
  • 日本エアロゾル学会論文賞, 2016年
  • 日本エアロゾル学会井伊谷賞, 2018年
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