分子間相互作用と分子間振動ダイナミクス

水素分子H2と塩化水素HClの1:1の分子クラスターの最安定構造.カラーマップは,青い色ほどH2の存在確率が高い事を表しています. つまり,それぞれの図の中心に描いたHClに対して,どこにH2が結合しているかを表しています. H2にはparaとorthoの2種類の核スピン異性体が存在します.それぞれの異性体の最安定構造は図に示す通り構造が異なります. また,結合力も大きく異なっています.この違いは,H2による量子統計の違いとして説明する事が出来ます.

マイクロ波(電波)を用いて、原子や分子が集団を形成(分子クラスター)した時に発現する特異な振る舞いを研究しています。1ケルビン以下の極低温に冷却されたHe液滴で観測される超流動現象は有名です。これは液体のHeを冷却する事で、個々のHe原子が接近し、やがて原子のもつ物質波(粒子性と波動性の2重性に由来した、全ての微粒子がもつ波としての性質)が干渉し、多数の原子があたかも一つの原子の様に振る舞う現象で、微視的な量子現象を巨視的な世界で垣間見る事ができる興味深い現象です。この例のように、分子間に働く力は、古典的なクーロン力よるものばかりでなく、量子効果の寄与も無視できません。どちらが優位に働くかは分子の置かれた状況によって様々です。分子間に働く力を系統的に理解するための研究が様々な分野で活発に進められていますが、私達は微視的な立場、つまり分子レベルでその詳細を明らかにしようとしています。その出発点として、分子同士が出会った時に、それらの間にどんな力が働いて、その結果何が起こるのかを、電波を使って詳細に調べています(図参照)。分子間相互作用の本質を明らかにし、更にそれを制御できるようになれば、分子の異性化や化学結合の組み換えを意のままに制御する事が可能になると考えています。

研究室についてSTUDENT
この装置は,分子を気体の性質を保ったまま,約5ケルビンまで冷却する事が出来る装置を内蔵しています.分子を冷却する事で,分子クラスターを生成する事が可能になります.生成した分子クラスターにマイクロ波を照射し,その応答を詳細に解析する事によって,クラスターのエネルギー準位構造や分子構造を調べます.特殊な装置ですから、市販されていません。自分たちで装置を開発しています。
量子力学や分光学の教科書の輪読を週に1度行っています.担当を決めて学生が順番に発表します.発表では,全ての式の導出を行い,書かれている内容を丁寧に説明します.
教授 住吉 吉英 SUMIYOSHI yoshihiro
研究キーワード 高分解能分子分光,マイクロ波分光、コヒーレント相互作用、分子構造,分子間振動ダイナミクス,分子クラスター,分子間相互作用,星間分子
研究分野 物理化学
主な研究テーマ
  • 量子統計を考慮した分子間相互作用の分光学的研究
  • 宇宙空間に存在する炭素鎖分子の分子構造と電子構造に関する研究
  • 分子間振動ダイナミクスのコンピュータシミュレーション
研究概要

私たちの研究室では,超音速ジェット法と組み合わせたフーリエ変換マイクロ波分光装置を用いて,主にHCN、CO、HClなどの星間分子と水素分子から成る分子クラスターの分子間相互作用ポテンシャル曲面を決定する研究を行っています。スペクトル分解能の高いマイクロ波分光法を用いると,純回転スペクトル中に核スピンと分子内電場勾配間の相互作用に由来した超微細分裂構造を観測する事ができます。この様にして得られた精密な分光データの情報を基に,分子間相互作用における量子統計が与える影響を詳しく調べ,そこから星間分子の異性化ダイナミクスや特殊な量子状態分布をもたらすメカニズムを明らかにしていきます。

提供できる技術 ・応用分野

気相における分光計測,C言語を用いた分子分光計測データの解析プログラム開発,NI LabVIEWを用いた計測装置制御プルグラムの開発

主要な所属学会

日本化学会,日本分光学会,分子科学会

論文
  • Laboratory and astronomical discovery of the cyanovinyl radical H2CCCN, Astronomy & Astrophysics, 676, L5, 2023(9pages)
  • Reevaluation of C4H Abundance Based on the Revised Dipole Moment, The Astrophysical Journal, article number 890:39, 2020(8pages)
  • Observations and analysis of absorption lines including J = K rotational levels of CH3CN: the envelope of Sagittarius B2(M) , Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, vol.497, 1521, 2020 (5 pages)
受賞歴
  • 分子科学研究奨励森野基金(2006年度)
最終更新日: