

複数の分子やイオンが自律的に集合することで一定の秩序をもった構造が形成される現象を自己集合(Self-assembly)と呼び、自然界においては酵素やウイルスなどが非常に複雑な秩序構造を自発的につくることで機能しています。このような現象の礎となるのが可逆的に形成される分子間相互作用ですが、水素結合や金属配位、ファンデルワールス相互作用など多様な相互作用の発現をうまくデザインしてやることで、人工的に巨大な構造体を「合成」することも可能となります。
私たちは特に、炭素−炭素三重結合からなるアルキンと銀や銅といった金属イオンの形成する配位結合に着目しています。この結合は単独ではあまり強固ではありませんが、他の複数の結合と共に働き独自の構造をつくる柔軟性を秘めていることを見出し、この特性を活用した未踏分子構造の構築を可能としました。例えば図に示した分子群も有機配位子と銀塩を溶液中、適切な条件下で混ぜるだけで構築することができます。その直径は最大で5 nm、分子量は2万近くあり、タンパク質に比肩するサイズと極めて複雑な分子構造を有していますが、SPring-8の放射光X線を利用した回折測定や溶液・表面解析を駆使して構造決定を行いました。さらに、さまざまな複雑分子構造を実現することで、精緻な生体システムに学んだ高機能材料や、従来誰も想像し得なかったような新物質群の創出を目指しています。

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私たちのチームでは、金属イオンと有機分子からナノスケール構造が精密に組み上がる現象に基づき、ユニークな構造を示すナノマテリアルの設計と機能開発について研究しています。これまで全く未踏であった構造を開拓するため、実験室での合成実験に加えて大型放射光施設SPring-8などでの測定にも出かけつつ、多面的な構造解析や特性評価に取り組んでいます。
T.T.さん(小山高専出身)

研究キーワード | 超分子, 自己集合, 有機合成, ナノ空間, ナノマテリアル, 分子トポロジー |
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研究分野 | 有機化学無機・錯体化学有機材料 |
主な研究テーマ |
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研究概要 | 自然界における生命活動は、複数の構成分子が一定の秩序に沿って自発的に集合する「自己集合」現象に基づき成り立つ、タンパク質や細胞など精緻な分子構造・機能に支えられている。人工系においても、自己集合の原理を従来の有機合成化学と組み合わせることで、従来では予想もできなかった構造をもつ分子の精密構築が可能となりつつある。例えば我々は、アセチレンが金属と織りなす柔軟な配位結合を他種結合や相互作用と協働させることにより、「分子絡まり」や「ナノクラスター」などのモチーフを複雑な構造に織り込んだ新奇分子材料を構築する研究を進めている。また、放射光を用いたX線構造解析、および各種溶液・表面解析等を統合的に駆使することで、新たな分子トポロジーに基づくナノマテリアルとしての機能開拓を目指している。 |
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提供できる技術 ・応用分野 |
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主要な所属学会 | 日本化学会,有機合成化学協会,基礎有機化学会,錯体化学会 |
論文 |
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受賞歴 |
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