発電する微生物による新しい環境改善技術

水環境を対象としており実際の環境でも試験しています
実環境から採泥したサンプルを使って研究室で実験も実施しています

微生物燃料電池は、発電する微生物の働きを利用して様々な有機物から直接電気エネルギーが得られる技術です。この発電する微生物は自分の体外に直接電子を受け渡すという特徴を持っており、様々な分野への応用が期待されています。特に、水の汚濁成分の除去にこの技術を適用しようという試みが広く行われており、新しい創エネルギー型の排水処理技術として注目されています。
 一方で、人口密集地にある閉鎖性水域などでは汚濁負荷が高く、結果として環境汚染が進み底質のヘドロ化といった問題が生じています。ヘドロ化した底質では溶存酸素の枯渇や硫化水素の生成といった周辺環境への悪影響が生じます。また、一度ヘドロ化すると自然浄化が非常に難しく慢性的に底生環境が悪化します。そのため排水処理のみならず、既に汚染が進んでいる地域への対策も必要不可欠であるといえます。
 私たちは、ヘドロ化した底質に適用可能な新しい底質改善技術の開発を目標として、先述の微生物燃料電池技術の底質改善技術への適用を試みています。これは堆積物微生物燃料電池と呼ばれ、これまでに底質中の有機物の分解促進や硫化水素の生成抑制が可能であることを明らかとしてきました。また、実環境へ設置を試験的に行い底質環境の改善を確認しています。この他にも本技術によってヘドロ化した底質内で様々な変化が生じており、これらの解明を進め実用化を目指し研究を行っています。

助教 窪田 恵一 KUBOTA keiichi
研究キーワード 微生物燃料電池,嫌気性処理,排水処理,水環境保全,底質環境改善,栄養塩対策
研究分野 土木工学環境保全対策
主な研究テーマ
  • 微生物燃料電池技術による発電型排水処理技術の開発
  • 発電・低環境負荷型の底質改善技術の開発
  • バイオマス・排ガス等からの有価物回収・生成技術の開発
研究概要

発電が可能な微生物など,様々な特徴を持つ微生物群を利用して排水処理や環境保全など水環境分野について持続可能な社会の構築に向けた研究を進めています。排水処理においては,微生物燃料電池技術による発電型の排水処理技術の開発を行っており,発電性能や浄化速度の上昇を目標に装置形状の最適化や発電微生物の効果的活用方法の開発などの研究を進めています。また,嫌気性メタン発酵処理法など,発電に限らず排水からエネルギーを回収することが可能な技術の研究も進めており,排水処理技術の高効率化並びに省エネルギー・創エネルギー化を目指しています。
環境保全では,閉鎖性の高い湖沼などで問題となっている底質汚染に対して,微生物燃料電池技術を応用した新たな底質改善技術の開発を進めています。単純に底質を浄化するだけでなく,発電によるエネルギー回収や硫化水素の発生や内部負荷の抑制など周辺環境への悪影響が低減可能であり,実用化に向けた取り組みを進めています。このほか,バイオマスや排ガスなどからメタンガスやメタノールなどの有価物を回収する生物学的変換技術に関する研究も進めています。

提供できる技術 ・応用分野

産業廃水等を対象とした嫌気性微生物や電気産生微生物を用いた省・創エネルギー型の廃水処理技術,堆積物微生物燃料電池を用いた環境改善技術

主要な所属学会

土木学会,日本水環境学会

論文
  • 微生物燃料電池適用が鉄電解式リン除去型浄化槽の処理性能と保持汚泥性状に与える影響,土木学会論文集 vol. 80(25), pp.24-25025 (2024)
  • 堆積物微生物燃料電池の適用が底質の窒素に与える影響とその影響範囲の評価. 土木学会論文集G(環境),Vol. 76(7),pp. III-503-III510 (2020)
  • Operation of sediment microbial fuel cells in Tokyo Bay, an extremely eutrophicated coastal sea. Bioresource Technology Reports, vol. 6 pp.39-45 (2019)
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