自発的に配向する極性有機分子を利用したエレクトレット型振動発電素子

皆さんは有機EL素子をご存じでしょうか?ELとはElectroluminescenceの略で,現在ではテレビやスマートフォンのディスプレイとして広く使用されるようになりました.有機EL素子は有機分子からできていますので,軽くて柔らかいといった性質があります.また多くの有機EL材料は,水やアンモニアのように極性を持っていることも特徴の一つです.これらの有機分子で薄い膜を作ると,不思議なことに膜の中で分子が自然と整列し,表面の電位が数十ボルトにもなる電荷を帯びた膜ができます.つまり有機EL素子の中にはこの電荷を帯びた膜が入っているということです.この役割はいったい何なのでしょうか?この謎を探るために,独自の電気的な評価手法を用いて研究を進めています.
 実は電荷を帯びた膜はエレクトレットと呼ばれ,古くからマイクロフォンや静電フィルタとして利用されてきました.最近では身の周りの振動から電力を得ることができる振動発電素子の心臓部としても注目されており,活躍の場がどんどん広がっています.しかしながらエレクトレットを作るためには絶縁体に荷電処理(電荷の注入)をしなければならず,作製は簡単ではありません.一方で極性の有機EL材料からできた膜であればその必要はありません.実際にこの新しいエレクトレットを用いることで,荷電処理を一切必要としない振動発電素子を作製することができました.振動発電素子は今後の社会を支える新しいエネルギー源となる可能性を秘めています.現在ではこの振動発電素子を実用化を目指し,有機分子の性質を詳しく調べながら高性能化を進めています.

研究室についてSTUDENT
研究室での実験の様子
研究室の学生部屋の様子
准教授 田中 有弥 TANAKA yuya
研究キーワード 有機エレクトロニクス,エネルギーハーベスティング,有機半導体,有機EL,有機トランジスタ,振動発電
研究分野 電気電子工学物理化学機能物性化学高分子有機材料
主な研究テーマ
  • 独自の電気測定法の開発と電子デバイスの動作機構解析
  • 有機半導体材料の特長を活かした電子デバイスの開発
研究概要

有機分子の軽量で柔軟といった特長を活かした有機エレクトロルミネセンス(EL)素子や有機太陽電池等の有機半導体デバイス(OSDs)の研究が盛んに行われている.OSDsの性能を向上するためには,デバイスの動作機構を深く理解し,素子の設計指針を構築する必要がある.そこで我々は変位電流評価法という電気測定法を用いて,電極からの注入や有機半導体中の輸送,ヘテロ界面での蓄積といった電荷の挙動を調べている.特に極性有機分子が自発的に配向した結果生じる分極電荷が,種々のOSDsの性能に与える影響に注目して解析を進めている.また我々はこの自発的に配向する極性分子からなる薄膜が,振動発電素子用のエレクトレット(半永久的に電荷,もしくは電気分極を有する絶縁体)として機能することも実証している.この新しいエレクトレットは,荷電処理を一切必要としないという従来材料にはない特長を有しているため,振動発電素子やセンサ,マイクロフォン,静電フィルタ等のエレクトレットからなる様々なデバイスの製造コストを下げることができる可能性がある.我々はこのエレクトレットの基礎物性の評価を行いながら,種々のデバイスへの応用展開を進めている.

提供できる技術 ・応用分野
  • 各種電子デバイスの電気特性評価,動作機構解析
  • 有機EL素子,OLED,有機トランジスタ,OFET,有機太陽電池,OSC (OPV)
  • 電気化学発光セル,全固体電池
  • 振動発電素子,センサ,マイクロフォン
主要な所属学会

応用物理学会,有機EL討論会,電気学会,電気化学会

論文
  • Self-assembled electret for vibration-based energy generator, Scientific Reports 10, 6648 (2020).
  • 自発的に配向する極性有機分子を利用した荷電処理が不要なエレクトレット型振動発電素子,表面と真空64, 16 (2021).
  • 振動発電器及びエレクトレット,特願2018-159860,2018-8-29.
受賞歴
  • 応用物理学会有機分子・バイオエレクトロニクス分科会(M&BE)奨励賞
メディア情報
最終更新日: