物質の中の電子の状態を精密に計算する

シュレーディンガー方程式を精密に解く

私は、計算によって物質の性質を解明していく研究をしています。物質は原子分子により構成されており、原子分子の中には電子が数多く存在します。この電子の状態を調べることで、物質の性質を知ることができます。電子はお互いに作用し合っていますが、特に電子同士のクーロン反発が強い系を強相関電子系といい、これまで広く用いられてきた密度汎関数理論などの電子の一体近似をベースとした計算手法では精密に計算できないという問題がありました。そこで二体の理論であるジェミナル(電子対)理論に着目し、強相関電子系における電子状態の精密計算の手法開発を行う研究をしてきました。
強相関物質の中には、超伝導やモット絶縁体など、非常に興味深い物性を持つものがたくさんあります。特に高温超伝導体は比較的高温で電気を抵抗なく流すため、電力問題の解決などに期待されていますが、その超伝導状態発現のメカニズムはいまだに解明されていません。そういったものに対して、計算により分子論的に解明していくことを目指して研究を進めています。

助教 川﨑 愛理 KAWASAKI airi
研究キーワード 強相関電子系, 第一原理計算, 電子状態計算, 波動関数理論, ジェミナル
研究分野 物性物理学物理化学
主な研究テーマ
  • 強相関電子系のためのジェミナル理論の開発
  • QTAIMとEhrenfest解析を用いた原子分子解析の研究
研究概要

遷移金属や希土類を含む系など、電子同士のクーロン相互作用が無視できない「強相関電子系」における電子相関の精密な計算のために、化学結合の理論的な表現として用いられてきた電子対(ジェミナル)の理論形式に注目し、1体近似を超え2体近似をベースとした、ジェミナル波動関数理論に基づく電子状態の精密計算手法の開発に取り組んでいる。
また、得られた電子状態計算の結果から原子分子の特性や化学反応の予測などの精密な解析を行うために、電子密度に注目したQuantum theory of atoms in molecules (QTAIM)の手法を用いた研究を行っている。QTAIMよりも精密な解析を行うためにEhrenfest力に注目した解析手法の開発にも取り組んでいる。

提供できる技術 ・応用分野

ジェミナル波動関数を用いた電子状態計算

主要な所属学会

理論化学会、日本コンピュータ化学会

論文
  • Four-body correlation embedded in antisymmetrized geminal power wave function, J. Chem. Phys. 145, 244110 (2016)
  • “The Ehrenfest Force.” In Advances in Quantum Chemical Topology Beyond QTAIM, pp. 225-244. Elsevier, 2023.
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