ヤヌス(Janus)というのはローマ神話に出てくる二つの顔を持つ神です。物事の始まりを司る神で、1月(January)の語源にもなっています。その神にちなんで名付けられたヤヌスキューブとは、図にあるように、立方体構造のシロキサン(ケイ素と酸素からなる、きわめて耐熱性の高い骨格です)の両側に4個ずつ違った種類の置換基がついた化合物です。これまでに、ヨーロッパ、日本、米国で合成が試みられてきましたが、8個ある置換基のうち、4個を同じ向きに揃えてつけることが大変困難で、今年に入るまで単離できた例もなかったのですが、私達の研究室で合成、単離、X線構造解析による構造の決定まで行うことができました。
 このような新しい骨格をつくることができるようになると、これまでになかった優れた性質を持つ材料を設計することができます。ハイブリッド材料というのは、無機化合物と有機化合物のいいところを併せ持つ次世代の材料で、今盛んに研究が行われていますが、無機物と有機物をどのようにくっつけるかが大きな課題になります。ヤヌスキューブの一つの面に、有機化合物と結合できる置換基(ビニル基やアミノ基、チオールなど)を配置し、反対側に無機化合物と結合できる置換基(シラノール:Si−OHなど)を配置すれば、有機物と無機物をナノレベルで結合させることができ、究極のハイブリッド材料として、エコタイヤや表面保護などの用途への応用が期待できます。
 私たちは、さらに第二世代、第三世代のヤヌスキューブ合成を目指して、現在も研究を続けています。

教授 海野 雅史 UNNO masafumi
研究キーワード シロキサン,シリコーン,高機能材料,耐熱性材料,ケイ素化学,機能性材料化学
研究分野 機能物性化学有機化学無機材料化学
主な研究テーマ
  • 高度に構造が規制されたシロキサンの合成研究
  • 新高機能材料の開発
  • 新規合成反応の開拓
研究概要

ケイ素と酸素を含む化合物を選択的に合成する基礎反応の開拓の他,低誘電率材料,高耐熱性材料として有望な構造規制シルセスキオキサンの合成を中心に研究を行っている。最近ではヤヌスキューブ,ランタンキューブなど,様々な大きさを有するカゴ型シロキサン,さらには反応性置換基を有するはしご型のラダーシロキサンなどの合成を中心に研究を行っている。

提供できる技術 ・応用分野

シロキサン,シリコーンの合成,シランカップリング剤合成,ケイ素化合物の構造解析

主要な所属学会

日本化学会,ケイ素化学協会

論文
  • Synthesis of an Azido-Substituted 8-Membered Ring Laddersiloxane and Its Application in Catalysis, Molecules, 30, 373 (2025).
  • Conjugation through Si–O–Si bonds, silsesquioxane (SQ) half cage copolymers, extended examples via SiO0.5/SiO1.5 units: multiple emissive states in violation of Kasha’s rule, Dalton Trans., 53, 10328–10337 (2024).
  • Synthesis and Characterization of Sulfide/Sulfone-Containing 18- 8-18-Membered-Ring Ladder-Type Siloxanes, Dalton Trans., 52, 9737-9743 (2023).
受賞歴
  • ケイ素化学協会奨励賞
  • 横山科学技術賞
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